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第1話:わたしはカザリ、26歳
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わたしはカザリ、IT会社に勤める入社4年目の26歳。
そこそこの大学を卒業して、やっと入社した会社の仕事にも少しずつ慣れてきて、ようやく心にも余裕が持てるようになってきた。
朝起きて、会社に行って、帰ってきて疲れて眠る。
休みの日は、だらだらと寝転がってアニメを見たり、友達とちょっとLINEしたりして過ごす。
平凡といえば平凡な日々。
でも、わたしはその“平凡”が嫌いじゃない。
むしろ安心感があって、悪くないと思っている。
……だけど。
心のどこかで、「このままでいいのかな」って思うことがある。
土日にゴロゴロしていると、余計にだらけちゃって、月曜日がつらくなる。
仕事も生活も安定しているのに、なんだかちょっとだけ物足りない。
「いつもと違うことがしたいなぁ〜」
そう思う瞬間が、たまにある。
わたしの会社は、社員が1,000人もいる大きな会社だ。
同期も30人ほどいるけれど、社内で雑談なんてほとんどしない。
みんなメールやチャットツールだけで用件を済ませて、人間らしい会話はない。
なんとも味気ないものだなぁと感じる。
毎日パソコンとにらめっこ。
先日は、つい仕事中にゲームしているのを上司に見つかって、めちゃくちゃ怒られた。
――自分はしょっちゅうタバコ休憩に行ってるくせにね!
そう思ったけど、まあ別にどうでもいいか、と心の中でため息をついた。
一人暮らしの休日は、もっとだらけている。
午前中はずっと布団の中。気づけばお昼近くまで寝てしまうことも多い。
食事も、パンやカップラーメンばかり。
たまには自炊しようと思うけど、コンビニで済ませる方が気楽で、結局また同じ繰り返し。
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それでも、アニメを観たり、推し声優の声を当てたりしていると、時間はあっという間に過ぎていく。
楽しいといえば楽しいけど――どこかで、虚しさが残る。
新しいことを始めてみたいと思っても、ビビって最初の一歩がどうしても出ない。
また、ドキドキハラハラするのも苦手だ。
――こんな矛盾だらけで、わがままなわたしでもいいのかしら?
そうやって自分に問いかけることもある。
急に将来が不安な気持ちになったり、急に寂しい気持ちになり人恋しくなったり。
誰かと繋がりたいという思いが、グッと込み上げてくることがある。
そんな恋愛映画みたいな展開に憧れがないわけじゃないけど、そんな非現実的な体験を、わたしにはできる気がしない。
だけど、そんなとき必ず思い出す人がいる。
わたしのお姉ちゃん――カザネ。
わたしは昔から「カザねぇ」って呼んでいる。
小さい頃から、困ったときはなぜかカザねぇに相談すると、うまくいくことが多かった。
わたしの性格を一番よくわかってくれているし、頭ごなしに否定しないで、ちゃんと耳を傾けてくれる。
だから自然と、頼りたくなっちゃう。
このままじゃいけない気がする。
そんな気持ちを抱えたままベッドに寝転がっていたとき、ふとスマホを手に取った。
「そうだ、久々にカザねぇにLINEしてみよう」
📱 カザリ → カザネ(LINE)
「カザねぇ〜? 元気してますか?
長女のあーたんはいくつになった〜?カザリは仕事でくたくたですよ。
でも、少しだけ楽しくなってきたけどねー。今度、休みの日に遊びに行っていいかなー?
ちょっと相談したいことがあって!
大した話じゃないんだけどね。LINEじゃアレだから、少し時間ください。
顔も見たいし。」
送信ボタンを押したあと、胸がドキドキした。
「大したことじゃない」って書いたけど、どう思うかなぁ〜。
ちょっと心配させちゃうかな〜。
もちろん、恋人を作りたいとか、結婚を焦ってるわけじゃない。
ただ、休みの日をダラダラ過ごしている自分を変えたい。
そう思っている。
でも、心の奥にはもう一つの気持ちがある。
「本当は、恋をしてみたい」
わたしは、恋愛に対して臆病だ。
そして、自分に自信がない。
「どうせわたしなんて」って思うクセがある。
カザネ:「臆病なのは悪いことじゃない。まずは“自分を大切にする習慣”から始めてみて。
この本は、自分の気持ちに寄り添ってくれるよ。」
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でも、そんな弱さを知っているのもカザねぇだ。
わたしの全部を受け止めてくれる、安心できる人。
だからこそ――会って話を聞いてほしい。
今度こそ、ちゃんと相談したい。
ベッドの上でスマホを見つめながら、少しだけ勇気を出した自分を褒めた。
たとえLINE一本でも、動き出したのは確かだから。
返信が来るまでの間、天井を眺めながら思う。
「もしカザねぇが、また背中を押してくれたら……」
そうしたら、わたしは新しい一歩を踏み出せるかもしれない。
そうやって小さく希望を抱いたとき、スマホの画面が光った。
――カザねぇからの返信だ。
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✨ 次回予告
第2話「実家でカザネ姉に相談」
久しぶりに帰省したカゼリ。
姉との会話のなかで、日常の悩みを打ち明ける。
そこでカザリは、思いがけず“恋”という言葉に向き合うことになる――。
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