第9話「恋の確信、未来を選択する勇気」
夕暮れの並木道で、心が近づく瞬間
夕暮れになり、公園を後にした二人は、駅前へと続く並木町を歩いていた。
光が並木を照らし、風がカサカサと葉を揺らす。
人通りが多く、道幅は狭い。急ぎ足で歩く人の流れの中、ふたりの間にはゆっくりとした時間が流れていた。
もう少しで離れることになる帰り道の寂しさが、自然と足を重くし、歩くテンポをさらに遅くさせていた。
そんな仕草から、お互いが好意を持っていることを、不思議と感じ取っていた。
ふと、前からの人波に押され、カザリは少しだけ車道側へと寄ってしまった。
その瞬間、彼がそっと腕をつかんだ。
「危ないから場所変わろう。心配だからさ〜」
驚いて顔を上げると、彼が少し照れたように笑っていた。
急に触れられたことで、心臓がバクバク。
顔が赤くなってくるのがわかる。
バレないように、うつむきかげんで――
「ありがとう」
小さくそう言ったカザリの声は、相手に届いたのかさえわからないまま、夜風に消えていった。
けれど、こういう彼の“さりげない優しさ”に、カザリの心が惹かれていくのを胸の奥で感じた。
別れ際に見つけた“もう少し一緒にいたい”気持ち
気づけば、駅の階段が見えていた。
このまま階段をのぼり改札口に行けば、帰ることになる。
カザリは勇気を出して言うべきか、少し迷っていた。
「ね。楽しい時間って、すぐ過ぎちゃうよね」
「ほんとに」
お互いに笑って、少し沈黙が流れた。
「じゃーまた!」とカザリが何かを待つように言って帰ろうとしていると、彼から声がかかった。
「もう少しだけ、話せないかな?」
「うん。少しなら。」
カザリは即答した。待っていたように思われちゃったかな、とカザリはそのことばかりが気になってしまった。
「ありがとう。よかった〜」
「なんだか寂しい気持ちになっちゃって、ごめんね。わがまま言って」
「いいえ。全然。言ってくれてありがとう。」
カフェで語られた“未来”のかたち
二人は並木の並ぶ小道を折れ、静かなカフェへと歩き出した。
店内には優しい灯り。外の風がひんやりしている分、店内の温かい空気が気持ちをホッとさせる。
「カザリさんって、どんな未来を想像する?」
突然の問いに、カザリは少し驚いた。
けれど、どこかで聞かれる気がしていた。
「うん。正直に言ってほしいんだけど、お金に困らない生活がいいとか、大家族でワイワイしている未来とか、こんな未来になるならいいかなーというのはありますか。ちょっと知っておきたくて。」
婚活では、未来のことをしっかり話し合うことが大事ってカザねぇが言っていたから、避けては通れないことだもんね。しっかり考えて話そう。
「うちは姉妹が多くて、いつも賑やかだったから……やっぱり、笑い声が絶えない未来がいいかな」
「いいね、それ。願えば、思い描く未来は来るよ。自分から行動していけば、思い描いた通りの未来にすることはできると思うよ。」
彼のその前向きな言葉に、カザリは安心した。
そして、ふと思った。
——この人となら、未来を語っていけるかもしれない。
小さな勇気が、次の約束を運んでくる
「ちょっと言ってみようかなー。」
「じゃあ……今度、うちに遊びに来てみない?」
「えー?」
「カザねぇを紹介したいし、すごい美人の自慢の姉なんですけど!」
「あっ、ごめん。」
「カザねぇって、お姉ちゃんがいるんだ。」
「じゃー予定が決まったらまた連絡しますね。」
カザリは、彼が少し尻込みするのをよそに、積極的に話を進めている自分におどろいている。
言った後で、ちょっと強引だったかなと少し反省しながらも、それ以上に彼への想いが自然と背中を押していた。
💌あとがき(カザネより)
カザリは、順調に恋の階段を登っている。
姉として少しだけ背中を押すことはあるけれど、
いちばん大切なのは、自分と合う人と出会えたことへの感謝だと思う。
恋は、育てるもの。
うまくいかなくなったときこそ、どう修正するかが次の試練になる。
わたしはこれからも、ふたりのことを暖かく見守っていきたい。
静かな夜風の中で芽生えた、この小さな恋が、
どうか優しい未来へとつながっていきますように——。
🌙 — 第九話 完 —

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