No.1「信頼という名の通貨」(2025年7月26日公開)

皆さん、はじめまして。
わたし、「こころ通信基地局」の局長、カザネと申します。
今回この基地局のアンテナがキャッチした言葉は――
「信頼という名の通貨」
信用でも、信仰でも、信念でもない。
それは、もっと身近な“信頼”という感情。
あなたは、誰かを信頼していますか?
そして、誰かに信頼されていますか?
この星では、実は目に見えない“信頼”が、すべての関係を動かしていることがあるんです。
今回の通信では、そんな“信頼”について、皆さんの星の言葉に変換して、物語としてお届けいたします。
顔も名も知らぬ者の想いが、ほんの少しでも、あなたの心のどこかに届きますように――
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🌸こころ通信 No.1「信頼という名の通貨」🌸
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この星では、**「信頼」**が通貨として使われている。
誰もが18歳になると、親から受けた愛情の深さに応じて、“信頼通貨”が与えられる。
通貨は見た目には透明だが、使うときにはやわらかな光を放つ。
けれどこの通貨、自分のためには使えない。
使えるのは、ただ一人――生涯でひとりきりの相手にだけ。
親の愛を感知するのが苦手な者は、“信頼通貨養成所”に通うことができる。
そこでは、鬼教官が愛のムチ…
その話は今度にして、続きといこう。
青年は、たっぷりと親の愛情を受け、十分すぎる通貨を持っていた。
はじめのうちは、それだけで安心していた。
だがやがて、知ることになる。
この通貨にはもう一つの厳しいルールがあることを。
「使わなければ、通貨は次第に光を失い、やがて価値を失う」
使うべき相手を見極めなければならない。
しかも、一度使えば、もう二度と引き返せない。
青年は慎重だった。
この人は自分の通貨を大事に使ってくれる信頼できる人なのか。
逆に、自分のために通貨を使ってくれるのか――
もし彼女が、別の誰かに通貨を使えば、青年はもう何も得られず、飢えることになる。
そんな不安を抱えながら、時は流れていった。
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ある夏の夕暮れ。
雨が急に降り出した商店街。
風はやわらかく、通りは人もまばらだった。
青年はふらりと、古びた雑貨屋に立ち寄った。
子どものころ、親に連れられてよく通った店。
そこにいたのは、あの頃と変わらぬ静かな面影――
店主の娘であり、彼の幼い記憶にずっと残っていた女性だった。
店の中に他の人影はない。
彼女は仕入れのため外出した親の代わりに、ひとりで店番をしていた。
二人きりの店内。
それでも、しばらく言葉は交わされなかった。
やがて彼女が、ふいにぽつりと語り出した。
「あの時のこと、覚えてる?」
青年は一瞬戸惑ったが、すぐに思い出した。
10歳にも満たなかったある夏の日。
彼は一人でこの雑貨屋に、親の言いつけで買い物に来た。
途中で喉が渇き、三軒隣の店で炭酸ジュースを買ってしまい、雑貨屋での買い物の支払いが足りなくなった。
「通貨、少し足りないんだけど……今度、ちゃんと持ってくるから」
幼い彼はそう頼んだ。
それが、彼女との最初の会話だった。
彼はそのことをすっかり忘れていた。
でも彼女は――忘れていなかった。
「その日の夜、うちの親に問いただされたの。
通貨が足りないって。
あなたのことを言えばよかった。でも、言えなかった。
泣きながら謝るあなたの顔が浮かんだから――」
けれど、黙っていた彼女は、逆に自分が通貨を盗んだのではと疑われた。
親の信頼を失い、店の手伝いも減らされ、
それ以来、人を信頼することが怖くなったという。
「うちの親は悪くなかったの。
たぶん私は、ちゃんと愛されていたと思う。
でも、例のことがあってから信頼が貯まらなくなったの。
ちゃんと説明していれば――
口下手だった、私のせいかもしれない――」
そう言った彼女の声は、どこまでも静かだった。
責めるでも、悲しむでもなく。
ただ、そこにいた。
青年は胸を突かれた。
思い出すことすらしていなかった“あの出来事”が、
彼女の人生に深く影を落としていたなんて――
そのとき、彼の信頼通貨が初めて光を放った。
彼は自分の通貨を、彼女に使うことを決めた。
それは、償いの気持ちではなかった。
赦しを乞うことでもなかった。
「この人に、自分の信頼を贈りたい」――そう思ったのだ。
彼女もまた、彼の話を聞いて、少しだけ泣いた。
でもそのあと、微笑んだ。
少年だった彼の不器用さを、責めることなく。
二人はその後、少しずつ言葉を交わすようになり、信頼を育て合った。
そんな二人も、長く一緒にいると、存在があたりまえになり、ケンカをすることが多くなった。
ケンカ→仲直り→ケンカ→仲直りの繰り返し。
でも、そんなことを繰り返すたびに、よりお互いのことを深く理解できるようになった。
完璧な人間なんていない。
良いところも悪いところも知り、
**「あなたらしいわね」**と思い合ったとき、
お互いの信頼通貨が共鳴し、美しい黄金色の光を放った。
それを見た二人はすぐさま結婚を誓い、やがて子どもが生まれた。
すっかり父親の顔になった青年は、子どもにたっぷりの愛情を贈る。
今度は、しっかり伝えていこう。
時間を重ねながら語り合うことの大切さ。
信頼は“与えるもの”から“築くもの”に変わっていくことを。
そして、**「信頼は相手を想うところからはじまる」**ということに、気づいてくれることを――
子どもの寝顔にキスをしながら願うのだった。
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ここまで、お届けしたのは“信頼という名の通貨”の物語でした。
わたし、強くキャッチしたのは、
「信頼」って、目には見えないけれど、とても大切なものだってこと。
時間をかけて自分を理解してもらい、
相手から与えてもらうもの。
お金でも、言葉の上手さでも、すぐには手に入らないし、
最後は、相手が決めるものなんだよね。
だからこそ、真面目に、正直に、
自分らしく生きてきた人が、
やっと…幸せを手にすることができるんだと思う。
そんなことを、
この物語は静かに教えてくれている気がします。
皆さんは、どう感じられましたか?
もし何か、心に残るものがあれば…とても嬉しいです。
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「また次回、お会いできる日を楽しみにしております」
こころ通信 No.1「信頼という名の通貨」〜おしまい〜
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